Cockscomb
旅行は準備も含めて楽しい。 9月のベトナム旅行に向け、屋台から星付きのレストランまで調べつつ、喜びを噛みしめる。 日本からだとベトナム旅行経験者は割と多く、いろいろな人におすすめの店や土産物について聞けるのも良い点だ。 やはり、実際に行った人の話が一番生き生きしており、ストーリーに艶がある。
ホーチミンからハノイまで、1週間かけて回る予定だが、本に乗っていないようなギリギリのおすすめがあれば教えて欲しい。
さて、サンフランシスコに行く何週間か前、まさに旅行の準備をしているところへ、現地の友人からあるURLが送られてきた。
見るとサンフランシスコで行くべきレストランをピックアップしたキュレーションサイトで、どの遷移先も蠱惑的とも言える素晴らしい料理の写真が並んでいる。
悩みに悩んで、私が選んだのがこの店だった。
Cockscomb
Cockscombとは、日本語で鶏頭の意味だ。 最近偶然にも同じ名前の、鶏頭という花を描いていて初めて知った。 確かに鶏の鶏冠のような形をしている。 まさか英語でもそのような名前だったとは。
鶏頭の由来が日本語か英語か、はたまた中国語なのかどうかは推して知らずべしだが、とにかく鶏頭と名のつくレストランに向かった。
ユニオンスクウェアから腹ごなしに歩いて30分。 季節の頃がちょうど中国の旧正月で、チャイナタウンでよく見るような赤い提灯が街を彩っており、その心持ち幻想的な風景が旅行の気分を一層盛り上げてくれた。
着くと、中は満席である。 予約は必須であろう。 カウンターの席に案内され、2人でキッチンを横目にメニューを眺める。 カウンターがデシャップのすぐ横だったため、時折出される料理を見ながらこれは何だろう、あれは何だろう、とメニューで答え合わせをするのが楽しい。 店内には黒板のメニューもあり、そこから牡蠣をいくつか頼むことにした。
牡蠣とビールを待つ間、残りの注文を決める。
メニューの詳細は下記にも載っているので、気になる方はご参照を。
横のデシャップではひっきりなしに料理が出され、その度に、出される料理について、あれは何だろうねと議論したりした。
キッチンでは常に指示が響き、活気にあふれている。 カウンターの横並びの席だったため、少しくらい騒がしくても会話が聞き取りやすくてよかったと思った。
カウンターでは、キッチンとも会話ができる。 今までどんな店に行ったか、おすすめはどこだ、など聞く。 みんなフレンドリーだ。 さすが流行りの店に勤めているだけあって、色々な所に行って食べて勉強しているらしい。 どの店を引き合いに出しても会話が成り立つなんて素晴らしいし、やはり好きこそものの上手なれなんだなあと、ビールを飲みながらいい気分で考えた。 しかし彼女、血糖値は気にした方がいいかもしれない。
1品め。 生牡蠣の盛り合わせ。
旅先での生牡蠣はあたりそうでヒヤヒヤするが、「お腹に入ってしまえばもうどうしようもないよ」という友人の一言で腹をくくる。 まだ腹には入っていないのだが。
ボードには○○産の牡蠣〜という風な記載があったのだが、見慣れない・聞きなれないので失念する。 結局この後はあたることもなく正常に旅をつづけられたので、多分ここの牡蠣は大丈夫な方の部類だと思っていただきたい。 くれぐれも私の独断と偏見であることにお含みおきを。
次に注文したのはこちら。
メニューには
BEEF HEART TARTARE
crispy grains, sprouts, smoked yolk, horseradish & seeded lavash
とあるので、牛の心臓のタルタル、ということになる。 スモークした黄身なんて初めてだ。
タルタルは確か元々はフレンチのソースの1つで、ピクルスや玉ねぎなどの香味野菜などを刻み、卵黄とお酢のソース……つまりマヨネーズと混ぜたものである。 つまりこの1皿はそのスペシャル版。
日本でもそんなに頻繁には食べない生肉だが、ほう、こうした食べ方もあるのかと勉強になる。 心臓なので少し歯ごたえがあるのだがそこまで癖はなく、香味野菜ともよく合う。 思考がデブなので上のソースはこの5倍くらい欲しかった。 あっという間に平らげ、お酒も2杯目に突入。
続いて注文したのはその名も
“HAM”BURGER
caramelized onions, grandma’s pickles, gruyere, tomato jam, & chips (add sizzled egg +2, add foie gras +20)
「アメリカで暮らして30余年、この方1度もハムを挟んだバーガーにお目にかかったことはない」とは友人からの言葉だが、なんとこのハンバーガーには粗挽きした「スペシャルハム」が挟まっているのみならず、追加でフォアグラが挟めてしまうのだ!
社会人って幸せ〜。 もし私が親に連れてこられた子どもなら、このトッピングをつけたいと駄々をこねても却下されるかあるいは、トッピングを承知された上で知らぬ間に親に全て食べられるか、そもそもこの店にこれないかのいずれかである。
お味はご想像におまかせする。 私が人生で食べたハンバーガーの中で一番リッチなハンバーガーであった。 今この文章を書いていても腹が減ってくる。 死ぬまでにもう2、3回食べたい。 いや、1年に1回食べたい。
ビールと料理でお腹を満たし、デザートワインで〆ようかとしていたところへ、ドがつくほどの美人が早口でデザートを勧めてきた。 早口というのは私の感覚であり、友人は早口であると思っていない可能性が高い。 なぜアメリカ英語はかくも早口なんだろうか。 酔いも手伝っておすすめが全然聞き取れない。
そうして頼んだのはチーズのデザート。 最後のレモンチェッロで酔っ払っており名前もへったくれもないが、ふわふわに削られた、まろやかで甘口のチーズの下に眠るのは洋梨のコンポートだ(確か)。 洋梨のかすかな酸味が、チーズの濃厚な香りと溶け合って、えも言われぬ香りと味が口いっぱいに広がる(確か)。
デザートメニューがウェブサイトに見当たらないので、もしかしたらこれらは日替わりや週替わりといった類のものなのかもしれない。
と、こういうわけで内訳。 2人で飲み食いして$127 + チップというところ。
サンフランシスコの物価を考えるとそこまで高いレストランという訳ではないが、それにしてもリッチな味であった。 こうして文字に起こしているだけでも、あの時の幸せがフラッシュバックする。
帰り道に見つけた道路の落書きが印象的だった。
どちらに進んでもU.S.A.なのか。